植物由来太陽電池
自然は、天然分子のさまざまな特徴を利用しています。自然がどのように分子の性質を利用しているかに学ぶことで、天然分子をうまく利用したデバイスを考えることができます。
AIST赤池、細貝、筑波大山田は、有機太陽電池の各部分に天然分子を利用して、環境にやさしい太陽電池を実現することを目指しています。天然分子の極性や励起子寿命など、発電に重要な物理化学的性質を利用するだけでなく、その低環境負荷性能、接着性、生分解性などの発電以外の性能も総合的に考することで、トータルとして真に持続的なデバイスが可能となると思っています。
N型有機半導体
半導体には、電子を運ぶn型と、正孔を運ぶp型の半導体のいずれも必要です。有機半導体では、n型が非常に少ないという問題があります。すると、有機太陽電池や有機ELなどの光電変換デバイスの性能がn型材料で律速されてしまい、有機エレクトロニクスの「多様性」の特徴が十分発揮できません。
理科大中山、筑波大山田は分子の合成チームと共同し、窒素含有アセンや、内包フラーレン、BQQDIなどのn型有機半導体材料の特性を研究しています。
熱活性型遅延蛍光
熱活性型遅延蛍光(TADF)は、光電変換の内部量子効率100パーセントを達成する次世代の有機EL発光メカニズムとして期待されています。希少な元素を使しない、ありふれた安価な分子でこれが実現できます。しかし、高効率のTADFメカニズムは十分解明されているわけではありません。
AIST細貝は超高速レーザーを用いた分光によるこれらの分子の励起状態のダイナミクス計測の専門家であり、TADFのメカニズム解明に取り組んでいます。また、AIを利用した計測の自動化にも取り組んでいます。筑波大山田は、よく規定されたTADF薄膜を作製し、これを利用したシンプルなEL素子の開発などに取り組んでいます。
有機単結晶
薄膜よりも結晶クオリティが格段に高い有機半導体の単結晶の電子物性は大きく注目されています。有機単結晶は、優れたキャリア輸送特性をしめすため応用が期待されているだけでなく、非常に均一でよく規定されているため、極めて重要な基礎研究の対象です。
東京理科大中山は有機単結晶やそのエピタキシャル膜の電子物性計測の専門家であり、筑波大学鶴田は有機単結晶作製の専門家です。今後さらに精密計測をおこなってゆくことで、我々は有機単結晶の表面科学の確立を狙っています。
分子軌道トモグラフィー
分子の軌道の可視化は物理化学の最重要テーマの一つです。反応や電気伝導の全てが、基本的には分子軌道が分かればわかると言っても過言ではありません。近年、比較的汎用的な光電子分光を利用した分子軌道トモグラフィーと呼ばれる分子軌道の可視化手法が世界的に研究が進んできました。
筑波大山田は分子研解良教授、松井教授と協力し、UVSORのBL6Uに設置された光電子運動量顕微鏡(モメンタムマイクロスコープ)を用いて分子軌道トモグラフィーの研究をおこなっています。また、千葉大二木先生と協力し、簡便な分子軌道トモグラフィーのアルゴリズム開発研究も行っています。筑波大長谷川は、本装置の立ち上げから当該研究に携わってきています。
有機アンチアンバイポーラトランジスタ
有機トランジスタはウエアラブルデバイスなどのフレキシブルなデバイス応用へ多くの利点を持っていますが、集積化が困難という問題を抱えています。このため、一つの素子に多くの機能を詰め込むことが重要です。
NIMS早川らが開発している有機アンチアンバイポーラトランジスタ(OAAT)は、シンプルな構造ながら負性抵抗に類似した電気特性を示すことから、多値論理回路、ニューロモルフィックデバイス、ロジックインメモリなど、ユニークなデバイスへの応用が可能となります。我々はOAATの性能向上や、オペランド計測による動作メカニズム解明を目指しています。
新規分子合成
理科大服部は、分子合成の専門家であり、OIL唯一の合成班です。
機能性材料の分子骨格としての利用が期待されている、リン原子を含む環状有機化合物の自在な合成法の開発を目指しています。